ミュージック バンク

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感性に訴えてきた楽曲を、ちゃんさきセレクションでお送りする音楽ブログ。独断と偏見で綴っています。

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【ジェニーハイ】まさかの典子さんが欠席した“クラシックコンサート”の幸先

ファン待望のアルバム3作目『ジェニークラシック』をリリースしたばかりのジェニーハイ。

コアなファンが待ち望んでいたのは、何より“典子さん”の行方だろう。

愛すべき典子さんの魅力に迫る

パートナーを夢中にさせるべくダイエットに励むも、大好きなタピオカの誘惑に負ける典子さん。タピオカを食べることを幸せとする彼女は、自分のためにダイエットを諦めることを選択するという、どこか憎めない愛らしさがあるのだ。

一見、継続力が心配されてしまうかもしれないが、その不安はまったくもって要らなかった。というのも、彼女には3年掛けてバイトリーダーまで上り詰めるという努力家な一面を持っているからだ。

そうして、ファーストアルバム『ジェニーハイストーリー』収録曲の「ダイエッター典子」や、セカンドアルバム『ジェニースター』に収録されている「バイトリーダー典子」で語られてきた典子さんだが、今作『ジェニークラシック』ではいつまで経っても彼女の姿が見当たらないのである。

実は密かにスペシャルゲストとして登場するのだろうかという淡い期待もあったが、何度録音された“クラシックコンサート”の音源を聴こうとも、“典子”という彼女の名前すら登場しないのであった。

まるで参加すると期待させておきながら、結局最後まで来ない仲の良い友だちからの不意打ちを食らったような感覚だ。いつかのJ-WAVE主催のラジオ番組『THE KINGS PLACE』でジェニーハイが担当していた際、“ファッショニスタ典子”といった案も上がっていたが、気が変わってしまったのだろうか。

典子さんの行方が心配されるところだが、“クラシックコンサート”は実に素晴らしかった。

良曲揃いの『ジェニークラシック』

yamaとのコラボ曲「モンスター (feat. yama)」で開幕し、ガッキーこと新垣隆さん奏でるピアノの音色が無双する「クラシックハイ」へとなだれ込む。

続く「超最悪」で中嶋イッキュウさんがパンクな歌声を響かせると、エレクトロミュージックを取り入れるという新たな試みで“GJ”に魅せる「GDGD」にバトンタッチ。シャンパンやビールを開け、最幸にグダグダしていたかと思いきや、サントリーのジムビームとタッグを組んだ「PEAKY」へと紡いでいく。ジェニーハイが井桁弘恵さんと“ピキピキダンス”を踊っていたのもまだ記憶に新しい。

てっきりそんな陽気な気分になっているかと思ったが、酔いが回るにつれ、マンネリ化してしまった彼氏との関係が脳裏にチラつくのである。お酒が進むのは、そうした「ケンタイキー」になってしまったことも理由のひとつだろう。

そして、お酒のシメはラーメンという人も少なくないかもしれないが、どうやら気分はスイーツだったらしい。映画『ハケンアニメ!』主題歌で、吉岡里帆さんが演じていた斎藤瞳監督の好きな“エクレア”をモチーフにした「エクレール」を頬張ってゆくのだ。

その後は独自のユーモアが炸裂した「TAXI」、“リッター10 現在走行中”や“バイパスを避けるプレイ”などの車関連のワードも見られる爽やかなサマーソング「ジェニーガールクラッシュ」、しっとりとしたサウンドの中にイッキュウさんの美しい歌声が響く「声雫」、女性運転手と愉快な仲間たちの日常を描いたハートフルコメディドラマ『トラックガール』の主題歌「トラップガール」といった乗りものを中心とした楽曲が並び、最後は「贅沢」でしっぽりと締めくくられているのだ。

典子さん不在という状況はどこか寂しく感じてしまったものの、“クラシック”というアルバム名を掲げている通り、今作のアルバムもまた“傑作(※classic)”である。

お笑い要素を控えめに、“音楽”にまっすぐ向き合い、幅を利かせた作品に仕上げてきたジェニーハイ。典子さんが居ない背景には、おもしろさで楽しむというよりも、“音楽”で自由に遊ぶことを選択したからなのだろうか。思えば、まもなく始まるツアー『クラシックファイブ』でも、最初の2公演のみゲストなし、3公演はお笑いゲストあり、5公演は川谷絵音さん率いるアーティストがゲストに控えているという状況である。

『クラシックファイブ』ではどんなステージを魅せてくれるのか。公演ごとにセットリストを変えてくることはあるのか。“一流な5人(※クラシックファイブ)”によるパフォーマンスが、今からとても楽しみである。

とってもダメウーマン! ヤバT、花冷え、ジェニーハイで紡ぐ、崖っぷちOLのとある日々

新卒の際に入社した会社を除き、これまでメディア関連の仕事に携わってきた。

そんなちゃんさき氏だが、自分に合う会社だけでなく、合わない会社に所属していたことも少なくない。

つい先日、最終出社を迎えた企業は後者だった。

こればかりは入社してみないと分からないため、仕方のないことだとは思うが、入社して1週間足らずで仕事内容が肌に合わないと感じたのをよく覚えている。

合わないながらも、3年と少し働いてきたちゃんさき氏。自分なりに頑張りつつも、これまでたくさんのミスをし、時には怒られ、へこたれそうになることもあった。

心に潜むブルゾンちえみさんからも思わず、「とってもダメウーマン!」と指摘されることもあったちゃんさき氏のダメっぷりを、自戒の念も込めて、この記事でポップに昇華させていきたい。

今回は、ヤバイTシャツ屋さん、花冷え。、ジェニーハイの各バンドの楽曲をピックアップ。それでは行ってみよう。

“すみません、ほんまに”

ヤバイTシャツ屋さん(以下、ヤバT)の楽曲には度々感心させられることがある。

例えば、映画『ニセコイ』のために書き下ろされた「かわE」では、「かわE越して かわF」、「恥ずかC越えて 恥ずかD」といったように“アルファベットを使った古典的な表現”で“アルファベット革命”を巻き起こし、“泡”と“Our”、“Bubble Bubble”と“バブバブ”といった赤ちゃんの発声を掛け合わせるなど、韻を踏んだ言葉遊び巧みな「泡 Our Music」はシャンプーのCMソングに抜擢され、そのキャッチーでポップなメロディをお茶の間に響かせていたこともまだ記憶に新しい。

そんなヤバTだが、EP『こうえんデビュー』の1曲目に収録されている「くそ現代っ子ごみかす20代」の破壊力が半端なかった。20代のことを“ごみかす”呼ばわりしている曲名はもちろん、仕事でダメっぷりを発揮してしまっている歌詞がなんだか大変ニクイのである。まだ“こうえんデビュー(社会にデビュー)”したばかりの新社会人だった頃や、仕事でヘマをしてばかりのいまの自分が自然と重なり、思わず涙腺を崩壊させられた。

この曲に登場する“俺”は「やらんといけんこと全部先延ばすマン」であり、時にはファイルを無くしてしまうダメっぷりも見せ、そんな自分のことを「くそごみかす20代の僕」と自虐しつつも、「それなりに頑張ってはいる」と思っている様子が描かれている。

そんな“俺”は膨大なタスクを抱えるがあまり、仕事の優先順位が上手くつけられずに締切日ギリギリに駆け込む自分とあまりにもよく似ているのである。また、机上がさまざまなモノで散乱し、なかなかファイルを見つけられない自分とも重なった。「すみません ほんまに」と心から思っているものの、あまり改善が見られず、怒られてばかり。しかしながら、それでもがむしゃらに頑張っていた。

“お先に失礼します”

花冷え。の「お先に失礼します。」もまた、“崖っぷちOL”のとある1日を垣間見ているような楽曲である。

まず、この曲の魅力だが、重厚なサウンドに乗せて歌うポップな歌詞がたまらないのだ。「お先に失礼します」といった日本ならではのフレーズを「Sorry, Sorry, I'm sorry, I know now Let's just run away」と彼女たちなりに意訳している点もおもしろい。

そして、そこで止まらないのが彼女たちの魅力だと思っている。おそらく緻密に計算されたであろう、ワードセンスが炸裂しているのだ。「Sorry, Sorry」と何度も頭を下げながらペコペコ謝っている様子を、次の「ペコペコちゃん♪とする〜」や「頭ぺこぺこ 笑顔が流儀」といったところに繋げているのである。

そうして某洋菓子店のマスコットキャラクターを連想させたかと思いきや、「コドモって見る気?」や「甘ったれてるよねまるでキャンディ」のフレーズに繋げ、あの看板商品を彷彿とさせる。それでもって同曲のジャケット写真に描かれているのは、ペコッとお辞儀をしながら、舌をペロッと出しつつ微笑む人のイラストなのだ。あのマスコットキャラを想像せずにはいられないだろう。

花冷え。はそうしたワードセンスをあちこちに散りばめつつ、仕事のストレスを強烈なデスボイスとともにお見舞いしているようなナンバーだ。過密スケジュール管理や馴染めない飲み会、それから業務上で発生する謝罪など、仕事をする上で発生する細々としたストレスを、ヘヴィなサウンドと激しいシャウトをもって解き放っていく。そんな彼女たちの“バズーカ砲”は、リスナーの抱える“負の感情”をもたちまち吹き飛ばしてしまうような威力があるように感じるのだ。

また、曲中に「唯一わくわく日曜日」「遊びたいカマシタイ」「Ah 最近ラッキーハッピーSunday」といった歌詞が出てくるのだが、楽しめる日がほぼ土曜日だけだった自分にとっては、曲中の主人公の気持ちが痛いほど分かるのである。平日は仕事で疲れ切っていたため、ほぼ何もできない日常を送っていた。

“お世話になりました”

ダイエットに失敗したり、買おうとしていた豆腐を買い忘れたり、調味料をこぼしたりと、“グータラ女子”っぷりをこれまで度々見せてきたジェニーハイ。「華奢なリップ (feat. ちゃんみな)」では、赤いリップを塗ることで強くあろうとする女性が描かれていたが、「超最悪」に登場する女性は本当に心から強い女性だと言えるだろう。

この曲に描かれているのは、どんな逆境に立たされようとも決して負けない、不屈の精神を持った“私”である。「何で私だけ詰んでるの でも負けねえ負けねえふざけんな」と冒頭から噛みつきつつ、美容ケアにも抜かりがない。朝も夜も化粧水、しわクリーム、乳液の3点セットを忘れず、さらには余裕があるときに美容液とパックを追加するといった徹底ぶりを見せている。

それもこれも、周りを見返すためだ。この“私”は「台本通りの大人たちに Noを突きつける系女子」であり、「逆襲が始まる音 崖っぷちで鳴っている」といまいる逆境をもポジティブに捉え、それをたちまち跳ねのけてしまうようなロックンロールスピリットを持っているのである。負けず嫌いな自分も思わず頷きたくなった。

“超最悪”に感じたこともいろいろとあったが、会社には感謝の気持ちが大きい。そして、やっとの想いで夢を掴んだからこそ、「私、最幸になってくるぅ お世話になりました」と心の内に秘めた想いを吐露している箇所は痛いほど分かるのである。

 

仕事が上手くいっていない人ならば、共感できることもあったかもしれない。

「どうも。充実した私生活、効率的な仕事ぶり。キャリアウーマンです!」。

そう言える日が自分にも遅かれ早かれ来ることを願っている。

“ロックンロール・ドリーマー”の音色は、今日も鳴り止まない

はじめに

あなたは心の中の“ロックンロール”をかき鳴らしているだろうか――。

“ロックンロール”。“ロック(rock)”と(and)“ロール(roll)”からなるこの言葉。日本語に無理やり訳すとしたら、“石が転がる”である。より分かりやすく表現するとしたら、“意思と意志(rock)”を持って、それを“生かし続ける(roll)”こと、だとも言えるだろうか。

例えばそれは「早くゲームしたいから、それまでに宿題を片してしまおう」といった小さなことから、「編集長になるために絶対にここで頑張ってみせる」といった大きなことまでいろいろあると思うが、定めた目標に向かってひた走っている姿は、みんな“ロックンロール”しているものだと思っている。

先生と私

そんな私には大きな夢があった。中高生の頃から、ずっと英語の先生になりたいと思っていた。自分ならもっと楽しい授業ができると、そう信じてやまなかったのだ。つまらない英語の授業を自分の手で変えてみたかった。だから、私は英語の先生になるために、英語学系の大学への道を選んだのだった。

しかし、入学して頑張りすぎたのである。周りを見渡せば、英語がペラペラな人ばかり。聞けば、高校生まで海外に住んでいたと言う。小学生の頃、帰国子女だった私とは比べものにならないほどの差があったのだ。その差を少しでも縮めるために、寝る間も惜しんでひたすら勉強していたのだが、2~3時間睡眠の生活は長らく続かなかった。大学1年生のときから統合失調症に苦しむこととなり、少しでも身体への負荷を減らすため、教職はあえなく断念した。大好きだった音楽も、ゲームも、読書も。すべて受け付けられなくなるほど、身体は既に限界だったのだ。これ以上、“ロール”したくともできなかった。

人間開花

そんな日々が半年から1年ほど続いたのだが、大学2年生は明るかったことを覚えている。講義は児童文学を楽しく受講していた他、サークルは卓球とダブルダッチを掛け持ちし、何かと充実した日々を送れていたのだ。そして、この頃からだろうか。卓球サークルの先輩方と徐々に親しくなっていき、サークル終わりにカラオケに直行。これまで洋楽やK-POPを主に聴いてきた私にとって、先輩方が歌う、RADWIMPSマキシマム ザ ホルモン、back numberなどの邦楽ロックアーティストの選曲はどれも新鮮だった。おすすめを聴いては、CDショップへと出掛けていく。そんな生活を送っていた。これが私のバンドとの出逢いである。KANA-BOONを好きになったのも、この時期だろう。

そして迎えた、大学3年生。エントリーシートの書き方を学んだり、SPIの勉強をしたりと、就職活動が本格化する中、ひと皮剥ける出来事があった。それが、自己分析である。自分の好きなことや好きなものをノートに書き止めながら、それぞれの好きな理由を深掘りしていたのだが、英語の先生にはなれなくとも、かねてから書くことが好きだったこと、そして読書も好きだったことから、出版の道を目指せるのではないかという希望の光がどこからともなく差し込んでくるのを感じた。

半ば反骨精神から抱いた夢は、これを機に自分の“好き”というポジティブな想いあふれる夢へと切り替わっていく。この自己分析を徹底的にやっていたからこそ、今があると言っても過言ではない。再び日々が“ロック”していくのを感じたのだった。第二章の幕開けである。

それからの私は、ひたすら音楽を聴いたり、映画を観たり、本を読んだりとインプットを欠かさなかった他、これまで勤めてきた塾講師のアルバイトを辞め、エンタメライターとしての一歩を踏み出したのである。プロの書き方を少しでも学ぶためだ。そうして大学3、4年生の日々はあっという間に過ぎていったのだが、出版社は全落ち。複雑の気持ちのまま大学を卒業し、なぜか気に入ってもらえた教育系の会社に就職した。そこで働きながら夢を追いかけ続けた結果、某出版社から「内定」を出してもらうことができた。記者としての道が拓けた瞬間である。9月11日のことだった。

言霊

記者として働いていた日々は本当に楽しいものだった。担当しているドラマの記事執筆から、ドラマ出演者へのインタビュー。何より音楽イベントに取材に行き、ライブレポートを書くことがこの上なく楽しかった。そして、未だに思い出すのが、その会社の採用面接である。今後のキャリアプランを聞かれた私は「編集がやりたい」、「編集長になりたい」とそう答えたのだ。

面接官は皆、笑っていた。本気になんてしていなかったのだろう。しかし、私は違ったのだ。至って本気の回答だった。私には大学生の頃から抱き続けた夢が3つあるのだ。ひとつがライター、もうひとつは編集者。そして3つ目は小説家だ。まずはライターになり、ゆくゆくは編集者になりたかったのである。だからこそ、誰よりも記者の仕事をこなしていた自負があったのだ。しかし、残念ながらその会社では叶うことは無かった。いろいろとあって退職してしまったのだった。

その後、100社以上、クリエイティブ系の仕事に携われる会社に応募するも、結果はまたしても全落ち。すべてお祈りされる結果となってしまった。それでも、あの日蒔いた夢の種だけはしっかりと育っていく。このブログを始めても、現在の仕事に就いても、編集がやりたいという想いは消えることなどなかった。しかし、今。その夢も掴むことができたのである。あの頃笑われた編集がやりたいという夢が、今、再び輝き出したのだ。何度挫けようとも、そのたんびに立ち上がってきたからこそ、今があると思っている。これから先の光景が非常に楽しみである。

“ロックンロール・ドリーマー”の音色は、今日も鳴り止まない。

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【年間ベストソング2022】ちゃんさきが選ぶ、マイベスト10選

明けましておめでとうございます。

早いもので、時は2023年の1月。2022年もさまざまな楽曲がリリースされ、多くの媒体やジャーナリスト、ライターからブロガーまで、音楽を愛する人たちが既に年間ベストを発表している中、遅ればせながら、今、昨年の年間ベストを上げようとしている。

アイドルソングについてはこちらにて記事化しているため、この記事では割愛するが、今回もよかったと感じたものを10曲ピックアップした。

独断と偏見で選んだ、マイベスト10選。愉しんでいってもらえたらうれしい。

サカナクション「フレンドリー」
フレンドリー

フレンドリー

新型コロナウイルスが世界各地で猛威を振るうようになり、社会全体が自粛ムードに包まれてしまうこともあった。そんなときからだろう。日本に定着している“空気を読む”といった独自の文化が時に“同調圧力”へと変貌を遂げてしまう様子を、主にSNSで見かけるようになった。気晴らしのつもりで呟いた内容でも、批判や否定をする声がしばしば見受けられる。また、そのような投稿者に対する、不満や怒りの声も後を絶たない。そんな日常になってしまった今を反映しているように思ったのが、サカナクションの「フレンドリー」である。「正しい 正しくないと 決めた虚しさ そう 真っ暗になる」や「左右 行ったり来たりの 水と泥の淀」といったフレーズは、そうしたSNSで行われるやりとりを表現しているかのように感じ、一郎さんは互いの相違点をも認め、尊重する大切さをやんわりとこの曲で“主張”しているように思ったのだ。この曲を「フレンドリー」と名づけた背景には、そういった一郎さんの優しさが反映されているのではないだろうかと思っている。

4s4ki「Punish」

ハイパーポップアーティストとして取り上げられることも多い4s4kiだが、そうカンタンに紹介してしまうのは野暮のように思う。というのも、“ハイパー”も“ポップ”もポジティブなニュアンスを持つワードであり、4s4kiが内に抱える“負の感情”の部分を無視してしまっているように感じるからだ。4s4kiはそうした“陰”、それからエレクトロやトラップ、ポップスなどの“陽”を感じさせる明るめのサウンドも混ぜ込んだ楽曲をリリースしているからこそ、国境を越えて、さまざまな人の心を掴んで離さないのだろう。だからこそ、いまのところ4s4kiにしっくりくるワードが無いように思うのだ。

今回マイベストに選んだ「Punish」は一見、ネガティブな“顔”が全面に押し出されているように感じるが、間奏パートでは思わず踊りたくなってしまうような、ドラムンベースダブステップなどの“陽”を感じるサウンドも混ぜ込んでいるところがおもしろい。体調不良になって響くものが多かった、4s4kiの歌。とりわけ“地獄”の中でも“篝火”を求めるという、まさにいま抱えるネガティブな感情に共鳴した「Punish」をセレクトしたが、4s4kiの創る音楽にはいつだって弱りきった心に寄り添ってくれるやさしさがあるように感じる。

Lucky Kilimanjaro「地獄の踊り場」
地獄の踊り場

地獄の踊り場

  • Lucky Kilimanjaro
  • J-Pop
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

コロナ禍や戦争など、ここ最近の世の中はどんよりとした空気に包まれているように感じるのだが、その時々の時代背景や自己の内面と向き合いつつも、「世界中の毎日をおどらせる」というテーマが決してブレることのないバンド・Lucky Kilimanjaroは、どんなに暗い気分でいても心を躍らせてくれる。そう感じたのが「地獄の踊り場」である。ボーカル・熊木幸丸が「いつだって強くない いつだってギャルじゃない 誰だって地獄があって 抜け出せない闇があるでしょう」と弱った心にやさしく語りかけるように歌うその声には思わず頷きたくもなってしまうが、その上で「そんな気分 あっていい気がして」と何度も肯定してくれるのだ。本能のままに“踊る”ためには、自分の弱さを認めないのではなく、受け入れてはじめて自分の心の赴くままに“踊る”ことができるのではないだろうか。最初は“不器用な踊り”になってしまうかもしれないが、自分の本心に向き合いながらも“踊る”ことで、やがて本来の“自分らしい踊り”を取り戻すことができる気がした。

THE ORAL CIGARETTES「BUG」

開始早々、クセになるリズムパターンを刻んだ電子音の“光線銃”をこれでもかと放ちまくる、オーラルの「BUG」。その間およそ50秒と非常に長く、パッと思い浮かんだイントロの長い曲の中でも、アジカンの「Re:Re:」以上、浜崎あゆみの「Mirrorcle World」以下を記録している。しかしながら、最初の電子音に次々と重なるようにして女性のボイスや楽器隊のサウンドが乗せられていくさまは、その長さを感じさせない。それどころか、大変ワクワクさせられるのだ。そんな印象的なイントロを持つ「BUG」だが、この曲から感じたのはおかしくなった世界にがむしゃらに抵抗しているようなロックスピリットである。これまでロックチューンで攻めることの多かった彼らが、電子音という新しいサウンドを取り入れながらも、やはり魂の部分ではロックをかき鳴らす。そんな姿勢がたまらなくカッコよいのである。また、コロナ禍以降のバグった世界でも、オーラルは新しい方法をもって理想的な未来や観たい景色が創れることを先導して証明してくれているように感じた。

chelmico「ISOGA♡PEACH

chelmicoがリリースしたアルバム『gokigen』の中で、とりわけ気に入っている曲が「ISOGA♡PEACH」である。可愛らしいサウンドとは裏腹にネガティブな感情が爆発している歌のちぐはぐさは、まさに忙しすぎて混乱している人の脳内そのもの。時折聴こえる木琴のような音も入ったそのピコピコとしたサウンドは一見“ゆめかわいい”ようにも感じるが、歌をじっくりと聴いた上で再生してみると、鳴り止まない携帯の着信音のようにも聴こえてくる。この曲で“私”が「スケジュールと格闘 いつ空いているの?って そりゃ会いたいよ 私も同じよ」「来週また来週毎度リスケです。」と言っているように、休日も返上して働いているのだろうかとすら思えてくるのだ。

そんな忙しさを曲にした「ISOGA♡PEACH」からは、“本当にご機嫌ですか?”というchelmicoからの“問い”が聴こえてきそうだ。働き方改革を実施している企業が多いとはいえ、サービス残業や休日出勤が“当たり前”だからとそれらを行ったり、周りが頑張っているからと自分も合わせたりと、働き方に対する意識が変わっていない人も決して少なくない。仕事を頑張ることはひとつの“正義”なのかもしれないが、自分を“gokigen”にすることも立派な“正義”であると堂々と胸を張って言える社会に世界全体がなっていってほしいと願っている。そしてそう考えているのは、chelmicoも同じのように思うのだ。

NEE「本日の正体」

「本日の正体」が流れ始めて、わずか5秒足らずでNEEだと分かる。そんな特徴的なサウンドこそがNEEの“強み”だと思っているのだが、この曲のもうひとつの魅力はその歌詞にあると思っている。曲中の“僕”が度々口にし、曲名にもなっている“本日の正体”の意味や解釈は婉曲的に書かれているため、リスナー一人ひとりの判断に委ねられているように感じるのだが、おそらく“僕の弱さ”のことを指しているのではないだろうか。人に嫌われるのが怖い自分、自分は間違っていないと疑わない自分、愛されたいだけの自分など、時に臆病になってしまうがゆえに出てきてしまう人もいる“さまざまな弱さ”を“僕”が代弁しているように感じるのである。だからこそ、“本日の正体”は“いつでも目の前で泣いている”上に、“誰よりもソッと静かに見守るの”であって、“確かに僕の内側でまだ 臆病に脆く弱く生きて居る”ものであるとも思うのだ。

[Alexandros]「Baby's Alright」

昨年放送されたドラマ『六本木クラス』の主題歌を担ったのが[Alexandros]で良かったと思うのである。炎上騒動や改名、元ドラマーの“サトヤス”こと庄村聡泰の“勇退”など、いろいろ経験してきた彼らだからこそ、『六本木クラス』で竹内涼真さん演じる宮部新がリベンジを果たすべく奮闘する姿と、どこか重なっているところがあるようにも感じたのだ。プロデューサーはドロスのファンなのだろうかと思ったほど、ドロスにこのドラマの主題歌をオファーしたのはあまりにも優秀なように感じただけでなく、そのプロデューサーの期待にちゃんと応えているドロスもまた流石だと言いたい。アーティスト側がドラマの世界にどっぷり染まった主題歌を提供していることも少なくない中、両者の世界観が合致したような「Baby's Alright」は、ドラマを観ていない人も、バンドをあまり聴かない人も楽しめる、“いいとこ取り”ができる楽曲のように感じた。そんなこの曲は、昨年リリースされたドラマ主題歌の中で、個人的ナンバーワンを誇っている。

Fear, and Loathing in Las Vegas「Get Back the Hope」

友だちと気軽に逢えない、ライブもできないなどの、これまでの我慢だらけの日々に対するストレスや鬱憤を一気に爆発させ、加速していくようなアグレッシブさを持っているのが、この曲。アルバム『Cocoon for the Golden Future』の1曲目に収録された「Get Back the Hope」である。それもそのはず。ベガスはおよそ3年間、アルバムをリリースしてこなかったのである。血がたぎっているのも納得できるだろう。そして、この曲は内に溜め込んだ不満を解き放っているだけでなく、「Take back that was ours(意訳:私たちの日常を取り戻せ)」「Don't need to make a stop Just keep running(意訳:止まる必要などない、走り続けろ)」とリスナーを鼓舞してもくれるのである。この3年間でしぶしぶ抑えてしまった“衝動”や“想い”を着火させていくような力強さがあるこの曲は、きっと一人ひとりのリスナーの心も突き動かしてくれるのではないだろうか。

ジェニーハイ「超最悪」

ジェニーハイが“強い女性”をテーマにした曲は、これがはじめてなのではないだろうか。例えば「華奢なリップ (feat. ちゃんみな)」では、傷心中の“私”が赤いリップを塗ることで強くあろうとする女性らしい姿が描かれているが、最後に彼女が「強くなるから」と言っているように、強がっているだけで決して強くはないことが伝わってくる。また「ダイエッター典子」では、スタイルが良い女性を見ていたパートナーに対し、「すっとぼけてんじゃないわよ」「あんた他の女見てたでしょ」とお怒り気味のその口調は強いものの、ダイエットのやる気が出ずに、最後は「タピオカ摂取できないよりは できる幸せを掴みたい」とタピオカ大好きな“私”が自分に負け、ダイエットを諦めてしまう姿が描かれている。

そんな中、ジェニーハイが「超最悪」で放ってきたのは、どんな逆境に立たされようとも決して負けない、不屈の精神を持った強い女性だ。冒頭から「何で私だけ詰んでるの でも負けねえ負けねえふざけんな」と吠える、ボーカル・イッキュウさんのパンクな歌声からも既にひしひしと伝わってくるように、この曲に登場する“私”は“負の感情”を抱けば抱くほど、それをたちまち原動力へと昇華させてしまうようなロックンロールスピリットを持っている。この曲をもって新たな一面をさらけ出してきたジェニーハイから、ますます目が離せなくなりそうだ。

水曜日のカンパネラ一寸法師
一寸法師

一寸法師

水曜日のカンパネラの音楽担当・ケンモチヒデフミ。彼の魅力は何と言っても、昔話やおとぎ話に登場する人物から歴史上の偉人まで、ある特定の“人”についてさまざまな想像力を膨らませながら作詞しているところだと思うのだが、xiangyuやfemme fataleの他、これまで多くのアーティストのサウンドプロデュースを手掛けてきた中で、詩羽ちゃん率いる“新生”水曜日のカンパネラがスタートするまで、その彼の“得意分野”である人物をテーマにした楽曲は提供していないところが非常にポイントの高いところだと思っている。2021年にリリースされたシングル「アリス / バッキンガム」や「招き猫 / エジソン」で、改めてケンモチさんのその“強み”に気づかされたが、収録曲の半分以上が人物を占める昨年のアルバム『ネオン』でそれが確信へと変わった。

今回ピックアップした「一寸法師」では、およそ3.03cmの小さな主人公が5人おり、「一寸暴威(一寸ボーイ)」と名づけたアイドルグループをやっているという、『御伽草子』の作者もひっくり返るような、斬新なストーリーが描かれているのだ。題材となった人物を増やすといった新たな試みがおもしろいだけでなく、一寸暴威のメンバー一人ひとりが持つ熱い魂と、芯の強さを感じる詩羽ちゃんの歌声、それからグルーヴ感のあるサウンドが重なり、最高のハーモニーを生み出しているように思っている。アルバム『ネオン』の中でもひと際魅力が光り輝いているように感じた1曲だ。

終わりに

愉しんでもらえただろうか。

最後に目次を記しておくので、気になった曲はぜひ聴いてみてほしい。

今年もよろしくお願いします。

夜と私――部屋で踊る不器用な踊り

周りを見渡せば、エンタメを現場で楽しんでいる人がいる。ライブやフェスに参加したり、映画を観に行ったり。とにかく、みんな楽しそうだ。

それもそのはず。今ではだいぶ新型コロナウイルス感染対策の緩和が進んできているため、公共の場でのマスク着用などのルールを守ってさえいれば、何も問題ないのである。少し前の、社会が向ける厳しい目が嘘だったかのように、一人ひとりが想い想いの時間を楽しんでいるのだ。

しかしながら。何らかの理由でそれが叶わない人も、少なからずいると思うのだ。そして、実は筆者もその一人。原因はいろいろとあるのだが、長引く体調不良により容易に外に出られないという状況が続いているのである。

今回は筆者とおんなじような立場に立っている人に向けて、その時々の時代背景や自己の内面と向き合いつつも、「世界中の毎日をおどらせる」というテーマが決してブレることのないバンド・Lucky Kilimanjaro(以下、ラッキリ)の楽曲を紹介していきたい。どんなに暗い気分でいても、彼らの音楽はきっと君の心を躍らせてくれるはずだ。

“お家”時間も楽しく――ラッキリが掛ける魔法

現場でエンタメを味わう良さを知ってしまっている筆者にとって、腹痛などの理由からお家時間を過ごしているのは、嫌々であったり、渋々であったり。どうしても“負の要素”が強かった。そんな考えを改めさせてくれたのが、ラッキリの「HOUSE」である。

HOUSE

HOUSE

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この曲を聴いていると、お家時間も不思議と悪くないと思えてくるのである。「HOUSE」はもともとコロナ禍に入る前の2019年にリリースされた曲でありながら、インドア派を肯定しているかのような楽曲となっているため、今、何らかの理由でお家時間を過ごす必要がある人たちにも刺さるような内容となっているのだ。

インドア派の主人公は、“部屋のプロフェッショナル”だ。旅行に行かなくとも、WEBから世界へと片手一つで旅をできる術を知っている。そして、彼は“ジャンボジェットもいらないし、高速道路も混まない”と楽観的なのである。

さらには、溜めていた漫画に浸ったり、Spotifyからラッキリを聴いたり。はたまたNETFLIXを楽しんだりと、自由自在。彼は夜の12時を回っても“まだまだ終わらないぜ”と、気が済むまで彼の世界にどっぷりと浸って自分の時間を楽しんでいるのだ。

その時間の使い方と彼のポジティブ思考は、まさにプロそのもの。嫌々お家時間を極めているわけではなく、“ここから出ない”と決めてお家で好きなことをして楽しんでいる姿には、衝撃を受けずにはいられなかった。今の私に必要なのは、その“楽しむ精神”なのではないだろうかと思ったのだ。

魔法はいつか解ける――そんな気分、あっていい気がして

どんな逆境にいようと、それも楽しめる人になりたい。そう、「HOUSE」は思わせてくれたのだが、時々、自分の弱さに飲まれてしまいそうになることもあるだろう。ラッキリは時にそんな気分も肯定してくれるのだ。それが、この曲。「地獄の踊り場」である。

地獄の踊り場

地獄の踊り場

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ボーカル・熊木幸丸が“いつだって強くない、いつだってギャルじゃない、誰だって地獄があって、抜け出せない闇があるでしょう”とやさしく語りかけるように歌うその声には思わず頷きたくもなってしまう。その上で“そんな気分、あっていい気がして”と何度も肯定してくれるのだ。

そんなにタフじゃない――そんなあなたに掛ける、信じるという魔法

寂しさや悩みに襲われてしまうことだってあるだろう。また、現場で楽しんでいたあの頃の自分を思い浮かべると、なんだか悲しくなってしまうことだってある。そんなときには、ラッキリはこの歌を贈ってくれる。「夜とシンセサイザー」だ。

夜とシンセサイザー

夜とシンセサイザー

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“寂しい夜、続くね、描いてた地図、覆されちまって”という歌いだしは、まるで現状に満足していない私たちの心そのものだ。ラッキリは弱者の心にもちゃんと寄り添ってくれるのである。

しかし、そこで立ち止まらずに進みたいのが本音だろう。“過去の宝は棄てて、砂漠の先、まだ見ぬ未来”と何度もリフレインされているところからは、私たちが頑張って前を向こうと努める姿も表現しているのだ。

“砂漠”なので、まだそこには希望が見えないかもしれない。そんな寂しさや不安に襲われながらも、その先の“まだ見ぬ未来”を見たい。その想いは誰もが持っているのではないだろうか。

 

ラッキリは“負の感情”も原動力に変えられることを知っているからこそ、「地獄の踊り場」や「夜とシンセサイザー」などの楽曲で、心の闇を描きつつも、それらの感情も肯定しているように感じる。こうして体調不良をネタにこの記事を書いて昇華しているように、ネガティブな感情は必ずしも悪でないのだ。

時には「地獄の踊り場」や「夜とシンセサイザー」のようにネガティブな感情に浸ったり、時には「HOUSE」のようにお家時間を楽しんだりしながら、感情の波を乗りこなし、夜が明けるまでしばらく不器用な踊りを繰り広げていたい。