ミュージック バンク

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感性に訴えてきた楽曲を、ちゃんさきセレクションでお送りする音楽ブログ。独断と偏見で綴っています。

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水曜日のカンパネラ・ケンモチヒデフミが凄いのは、“人”がテーマの曲だけじゃない!

水曜日のカンパネラの音楽担当・Kenmochi Hidefumi。彼は独創的なサウンドを手掛けているだけでなく、オリジナリティあふれる歌詞も生み出している。“人”をテーマにした曲が多く見られるが、今回は人以外がテーマの個性的な楽曲も紹介していきたい。

はじめに

水曜日のカンパネラ(以下、水カン)は好きだろうか。

自分が思ったまま、感じたままに表現しているボーカル・パフォーマーコムアイ、独創的な歌詞やサウンドを生み出している音楽担当のKenmochi Hidefumi(ケンモチヒデフミ)、その他“何でも屋”のDir.Fからなる同ユニット。

私が彼らの音楽を聴いたのは、アルバム『ジパング』が最初だった。Apple Musicに大きく取り上げられていたため、気になって聴いてみたのだった。そして、1曲目に収録されている「シャクシャイン」でパンチを食らった。

ぶっ飛んでいる、というのが率直な感想だ。何といっても歌詞がおもしろい。

地名をひたすら羅列していると思ったら、突然、“食らえマルちゃん焼きそば弁当”と必殺技のように食べ物が飛び出す。さらに、“白い恋人”や“マルセイバターサンド”などのお菓子まで続々登場。北海道の魅力がたんまり詰め込まれたこの曲に、私は衝撃を受けずにはいられなかった。

まさかの一発ノックアウト。強烈なアッパーだった。

こうして水カンにすっかり虜になった私は、特に歌詞の部分に魅力を感じている。

今回は、ケンモチヒデフミさん(以下、ケンモチさん)が作詞を担当している曲をいくつかピックアップして、その個性的な歌詞を紹介していきたい。

“人”をテーマにした楽曲

昔話やおとぎ話に登場する人物から歴史上の偉人まで、ある特定の“人”について想像力を膨らませながら書くところが、何といってもケンモチさんの魅力だと思う。

例えば、楽曲「桃太郎」のMVを観てほしい。

この桃太郎、昔話に登場する桃太郎とは全く異なる人物として描かれているのが分かるだろうか。

昔話の桃太郎は、村人たちに悪さを働いている鬼を退治しようと、イヌ、サル、キジを従えて鬼ヶ島へ果敢に躍り出る物語だ。

しかし、この桃太郎は、宿題も勉強もせずにゲームに明け暮れている姿が描かれている。しまいには家を追い出され、ペットのイヌ、サル、キジと仕方なく鬼退治しに行くという、本来の桃太郎の性格とは真逆で、どこか現代風にアレンジされたストーリーになっている。

また、曲中には元ゲームソフト開発・販売会社の“ハドソン”や、「ファミコン名人」として名が知られる“高橋名人”、さらにゲーム機のコントローラーのボタンを1秒間に16回押すという高橋名人の必殺技“(魂の)16連射”などが登場。

加えて、桃太郎がファミコンのコントローラー・2コンに付いているマイク(2コンマイク)から“一緒に行こうよ鬼が島 あなたの助けが必要です”と叫ぶシーンも描かれており、ゲーム好きなファミコン世代に刺さる内容となっている。

現代風のアレンジが施された楽曲は、他にもたくさんある。

例えば、芸能の神であり、日本最古の踊り子でもあるアマノウズメが登場する「アマノウズメ」では、歌詞中に“ディスコ”が出現する。その他、江戸時代なのに“運転席”や“助手席”、“後部座席”といった車の表現が描かれる「松尾芭蕉」などがあり、ユニークな人物が描かれている。

ケンモチさんは、小説や映画からのアプローチも忘れない。

太宰治の短編小説『走れメロス』からアイデアを引き出しつつも、歌詞中には“ハナ・アタマ・クビ”と競馬を匂わせるフレーズが登場する「メロス」の他、「一休さん」では昔話の要素を取り入れつつも、“レインボーブリッジ封鎖できません”と映画『踊る大捜査線―』からピックアップされたワードが入っている。また、「オードリー」では、映画『ローマの休日』で主演を務めたオードリー・ヘップバーンが題材となった楽曲だ。

このように、ケンモチさんは“人”がテーマの曲の描き方がとにかく独創的で魅力にあふれているが、彼の作詞力がスゴいのはそれだけにとどまらなかった。

テーマはそっち!? 敢えて主題をタイトルに入れない楽曲

「見ざる聞かざる言わざる」という曲を聴いてみてほしい。

曲中には、タイトルにもある、栃木・日光東照宮にいる三猿が登場する。

しかし、“「せざる」という4体目のシンボル”が歌詞に登場するのを忘れないでほしい。

三猿の元となったのは、孔子の『論語』だ。曲中にも、“礼にあらざれば”という『論語』の中に登場するフレーズが出てくる。そして、その中で孔子は「見るな、聞くな、言うな」の3つの教えだけではなく、「するな」の4つ目の教えを説いているのだ。

ただ、なぜか三猿しか残っていないことに目を付けたケンモチさんは、“最近用はない”や“少々品がない”などと、4体目の「せざる」の気持ちになってこの曲を書いたものだと私は思っている。

だから、この曲のテーマは「見ざる聞かざる言わざる」ではなく「せざる」なのだと思う。ただ、曲名を「せざる」にしなかった理由は、おそらく「せざる」が日光東照宮にないからだろう。

ケンモチさんが“天才”とささやかれる理由は、こういうところにあるのだろう。

何この歌詞! 一般的な曲名のイメージとはガラッと異なる独創的な楽曲

もうひとつ、面食らった曲を聴いてみてほしい。

ひたすら駅名が登場する歌詞。そして、付けられた曲名は、すごろくでも、人生ゲームでもない。「モノポリー」だ。そこに深く感心した。

モノポリーは、アメリカで誕生したボードゲームのひとつ。すごろくや人生ゲームとルールは何ら変わらないが、マス目にはさまざまな鉄道会社や地名の他、駐車場や刑務所などが描かれている。

ここからケンモチさんはヒントを得たのではないかと思うのだ。鉄道の代わりに電車という、日本人にとって馴染みのある交通手段に置き換え、歌詞には路線名も登場する。また、“二重橋前 再逮捕”というフレーズからは、モノポリーで登場するGO TO JAIL(刑務所行き)の名残りであるかのように感じる。

そんな、ケンモチさんのセンスがきらりと光る曲となっている。

曲名も歌詞も独特! 言葉遊び巧みなオリジナル要素あふれる楽曲

最後に、「ディアブロ」を聴いてみてほしい。

“Dear 風呂”とスペイン語の“悪魔(Diabro)”の意味、さらに“ディアブロ”というゲームの要素を掛け合わせた曲名となっているのが特徴だ。

歌詞中には、“デビル デーモン サタンにルシファー”と悪魔に関連するフレーズが登場する他、“あくま(悪魔)で昇天”という掛け言葉も見受けられ、MV中でも悪魔やゲームが登場する。

また、曲中には韻を踏んでいる箇所が多く見られ、オリジナリティあふれる楽曲となっている。

感想

このように、ケンモチさんが持ち前の豊かな想像力を発揮しているのは、“人”がテーマの曲だけでない。

ケンモチさんはステージに上がらないものの、しっかりと縁の下の力持ちとして活躍されているのがスゴいところ。

5月15日に発売されるアルバム『沸騰 沸く ~FOOTWORK~』も期待できるに違いない。

それにしても、これを書いていたら、また水カンのライブに行きたくなってきた。

コムアイちゃんのパフォーマンス、また生で観に行きたい。

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水曜日のカンパネラの武道館ライブの模様(PHOTO:水曜日のカンパネラ 日本武道館公演〜八角宇宙〜 のもの)