ミュージック バンク

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感性に訴えてきた楽曲を、ちゃんさきセレクションでお送りする音楽ブログ。独断と偏見で綴っています。

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時空を超える「Super Ocean Man」から感じた、banvoxの固い意思

banvoxがダンスミュージック界を率いる日本人スターのひとりだという人がいたら、それは半分正解であり、半分違うと思う。彼はもっと自由なのではないか――。

“ジャンルや型に縛られたくないんですよ”。以前どこかで読んだインタビューでそう話していたbanvox。ダンスミュージックを中心にさまざまなアプローチを試みてきた彼は、ここ数年ではヒップホップに挑戦するなど新たな一面を魅せてきた。しかし、思えばそれは今に始まったことではない。2014年にリリースされたファーストアルバム『Don't Wanna Be』から、彼は自由自在にサウンドを操ってきた。

Don't Wanna Be feat. Jordan Morris

Don't Wanna Be feat. Jordan Morris

  • banvox
  • ダンス
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

例えば、ファーストアルバムの表題曲「Don't Wanna Be」では、ゆったりとしたR&Bテイストから曲が始まるといったジャンルを超えたアプローチを試みている。しかし、次第にダンスミュージックへと変貌を遂げるというトリックが仕掛けられており、そこがこの曲をおもしろくさせているように感じたのだ。まさに固定観念に縛られたくないといっているかのような曲である。

そして、その固い意思が揺らいでいないように感じたのが、今から2年前の2020年にリリースされたアルバム『DIFFERENCE』だ。ヒップホップコンセプトで制作された同アルバムは、これまでのテイストから大幅に方向性を変えたことで世間をざわつかせたものの、やはりその根底にあるのは自由に自分の想う世界観を表現したいということに尽きるのではないだろうか。アルバム収録曲の「Stay The Night」では、banvox本人がラップを披露している。

Stay The Night

Stay The Night

  • banvox
  • ヒップホップ/ラップ
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

同アルバムはiTunes HIPHOPジャンルのアルバムチャートで1位を獲得するなどの快挙を成し遂げていたのだが、どうも筆者にはピンと来なかったのである。というのも、これまで人気を集めてきたダンスミュージック要素が無かったからだ。

しかしながら、今回の「Super Ocean Man」は違った。6月3日にリリースされたばかりのTohjiの最新アルバム『t-mix』に収録されているこの曲は、ヒップホップとダンスミュージックの垣根を軽々と越えてくる。それも、どちらか一方に偏ることなどなく、ヒップホップとダンスミュージックが手を繋いで仲良く共存しているのである。

Super Ocean Man

Super Ocean Man

  • Tohji & banvox
  • ヒップホップ/ラップ
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

喧嘩することなくやさしく溶け込むそのハーモニーは、季節を超えるチカラもあるから不思議である。時は既に夏なのだ。しかも、感染症対策が始まる前の、何も規制が無かったあの頃の自由な夏の訪れを感じさせてくれるチカラが宿っているように感じた。徐々に“あの頃”を取り戻しつつある今、この曲は希望を見出してくれるのである。

そして、今回。banvoxはラップを披露するプレイヤー側ではなく、サポーターのようなプロデューサーの立場に回っている。一度、「Stay The Night」でプレイヤー側を経験しているからこそ、活かせているものも多いのではないだろうか。

「Super Man」とTohjiが歌うところで、疾走感のあるドクドクと胸を打つビートが流れるパートでは、まるでTohjiが大空を飛んでいるかのように感じさせるなど、banvoxは“Super Ocean Man”であるTohjiの歌を、美しく彩っているのだ。

また、この曲のおもしろさはその歌詞にある。「世界中股にかけたい 世界中股にかけたい 大事なことは2回言うタイプ 大事なことは2回言うタイプ」と、Tohjiにとって“大事なこと”を2回繰り返しているだけでなく、「大事なことは2回言うタイプ」というセリフまで2回リフレインしている遊び心のあるパートには、思わずクスリと笑ってしまうだろう。

さらには「嵐みたい ニノ」と嵐の“ニノ”こと二宮和也をさりげなく歌詞中に登場させているところにも、ワードセンスを感じた。それでいて、曲全体を通して揺るがない自信や信念のようなものを感じさせるところには、思わず胸を打たれるものがあるのだ。

とにもかくにも、しばらく耳を離せずにいられなかった「Super Ocean Man」。今思えば、アルバム『DIFFERENCE』はこの曲を作るための伏線のようなものだったのではないかとさえ思えたのだった。banvoxが本当にやりたかったのは、これだったんじゃないのか――。

“ジャンルや型に縛られたくない”というファーストアルバムからの意思は、今も彼の中で生き続けているのだろう。これからも“自由形”のスタイルで、音楽業界の波を泳いでいってほしい。カタチにとらわれないスタイルで魅力するbanvoxには、終始、感心させられっぱなしである。