美しいメロディラインに定評のある、Zedd。
「Stay」や「The Middle」では、そのお洒落なメロディに乗せて、切ない歌詞が響き渡る――。筆者は見事なまでに溶け合った、その美しいハーモニーがたまらなく好きなのだ。
先日開催された「SUPERSONIC 2021」に出演していたZeddは、上記2曲のほか、これまた好みの「Stay the Night」、人気曲の「I Want You to Know」や「Clarity」など、さまざまな楽曲を披露。とりわけ気に入っている「Funny」もドロップしつつ、フロアにいる観客だけでなく、画面越しに観ている筆者含め、多くのファンを愉しませた。
Zeddの“聴かせる楽曲”は、本当にどれも魅力的だ。しかし、やはり筆者の中では「Funny」が圧勝である。そんなこの曲の魅力は、最初から最後まで巧みに攻めていることにあると思うのだ。
初めて聴いたときから衝撃を受けているのだが、お洒落で切ないサウンドに乗せて歌っているものとは思えないくらい、歌が毒づいているのである。しかしながら、情景描写の描き方はとにかく美しく、そのコントラストには思わず眩暈がしてしまいそうだ。
この曲は切ないイントロが流れたあと、“カーテンは閉められた”という歌から始まる。そして、“足元に横たわっている枯れかけた薔薇以外には、何も見えない”と続く。その後、直球ストレートのアイロニーを効かせた言葉を投げつけるまでは、これがまだ“毒”の序章に過ぎなかったなんてことは、全く想像つかないだろう。心は閉ざされ、愛が終わりかけている様子を、敢えて美しい比喩に例えることで、皮肉を強調させているように聴こえるのだ。
幕開けから歌とサウンドによる巧みな表現方法で攻めているこの曲は、女性側の気持ちを描きながら、すれ違う男女の心を描写している楽曲だ。そして、この曲で注目してほしいのは、サウンドのほうである。歌詞が強いぶん、どうしても皮肉たっぷりな歌に意識が傾きがちだが、この曲の切ないメロディにスポットライトを当ててほしい。散々毒づいているのにも関わらず、こんなにメロディが切ないのは、相手の男性のことが忘れられないからではないだろうか。そんな解釈もできるだろう。
相手のことを忘れられない自分が“おかしい(Funny)”のか、はたまた急に恋心を露わにしてきた相手が“おかしい”のか。この曲の捉え方は、私たち一人ひとりに委ねられているのかもしれない。そんなことを思いながら、ふと薔薇が登場する物語で、心の食い違う男女の様子が描写された『星の王子さま』が思い浮かんだ。
『星の王子さま』では、王子さまのことを愛していながらも、何かと素直になれない、あまのじゃくなバラが登場する。王子さまが自分の星を離れる旅立ちの日になって、ようやくバラは自分の行いを後悔するのだ。一方の王子さまも、旅をするうちにバラのことを愛していたことを自覚し始め、バラを自分の星に置いてきてしまったことを悔いるのである。
「Funny」に登場する男女も、それぞれ離れ離れになって改めて相手の想いに気づいたのではないだろうか。歌詞を追っていくと、女性には新たに好きな人がいることが分かるのだが、彼女の気持ちにはまだ好きだった男性に未練があるように私は感じる。
そんな男女のもどかしさを描いたような、Zeddの「Funny」。隅々までこだわりを感じるこの曲は、まるで生きるのが下手な筆者の気持ちを描いているように聴こえるからだろうか。自分の心に温かく寄り添ってもらえているようで、私はZeddの楽曲の中で一番気に入っている。