ジェニーハイが音楽とお笑いの最高のフュージョンで奏でた「アリーナジェニー」。それは“天才を超えよう”という、そのバンド名にふさわしい圧巻のライブだった。
ワクワクするオープニング
パーキングのマークまであり、細部までこだわりを感じるコンビニをイメージしたステージが青く光る中、この日の公演は「ジェニーハイのテーマ」から幕を開けた。しかし、イントロは流れているものの、肝心のメンバーが見当たらない。
そのまま序奏が終わりかけた、次の瞬間である。「俺が川谷絵音だ」という声が響き渡り、バンドのプロデューサー兼ギターを務める川谷絵音(以下、絵音さん)が姿を現した。アリーナにいた観客が拍手で静寂を破ってゆく中、絵音さんはそのまま自身の自己紹介パートを続け、センターステージまで堂々と歩いていく。
そして、そんな絵音さんに続き、キーボードを担う新垣隆(以下、ガッキー)、ベース担当のくっきー!(以下、くっきー)、ボーカルを務める“歌姫”中嶋イッキュウ(以下、イッキュウさん)、ドラムを受け持つ小籔一豊(以下、小籔さん)が一人ひとり登場。自己紹介する形でバトンを繋げてゆくという、斬新なオープニングからスタートした。
笑いを誘う“典子さん”
メインステージへ戻り、「夏嵐」や「ランデブーに逃避行」、「コクーンさん」を披露すると、「ダイエッター典子」へ。ダンサー・典子さんたちが登場し、エクササイズ風のダンスを繰り広げる中、イッキュウさんが典子さんの想いを高らかに歌い上げていく。
この曲に登場する典子さんは、名目上はダイエッターである。連れの“あんた”がスタイル完璧な他の女性を見ていたことで嫉妬し、ダイエットに励もうとするも、大好きなタピオカの魅力に負けてしまっているのが現状だ。
頭の中では「食べ過ぎ注意」や「モチモチガールを卒業したら ボンキュッボンになるんだから」とは思いつつも、とにかく“やる気が出ない”のである。そんな典子さんの心情を、ダンサー・典子さんたちとともにジェニーハイは描いていた。
イッキュウさんの「頑張ってダイエッター典子」という歌声とともに応援したくなる声をグッと抑える代わりに、手を挙げたり、拳を突き上げたりと、エールを送っていると、典子さんはある“考え”が思い浮かぶのである。それは「食べ過ぎたら 奇跡的な体質変化が起こるかもしれない」「科学を超える力は奇跡でしか起こせない」というもの。典子さん流“タピオカダイエット”だ。
「幸せ掴みたいんでしょ お腹掴めてる場合じゃない」と思っていた典子さんが「食べ過ぎ上等ダイエッター」「タピオカ摂取できないよりは できる幸せを掴みたい」と開き直る瞬間は笑いを誘うが、そんなユーモアたっぷりの典子さんのファンは多い。その後、ジェニーハイは立て続けに「バイトリーダー典子」を披露し、“典子さんシリーズ”を完成。典子さんの世界観へと引きずり込んだ。
ダンスで魅せるジェニーハイ
MCを挟み、披露されたのは、「ジェニーハイラプソディー」、「愛しのジェニー」、「ジェニーハイボックス」のダンス曲の数々である。
両手で作った“ジェニーハイ(genie high)”の“g”のポーズを左右にリズミカルに動かしたり、リズムに合わせて前に突き出した両腕を舟をこぐようにして踊ってみたり、手遊びうた「おべんとうばこのうた」をオマージュした振り付けを披露したり。それぞれの曲で楽しそうにダンスするメンバーに合わせて、一緒に踊る人や、手を挙げる人など、観客は思い思いにその場を楽しんでいる人が多いように感じた。
また「愛しのジェニー」では、メンバー4人が前屈をする中、絵音さんが一人ひとりに「不埒なあの子も才能の前に背筋ピン」と歌っていき、それぞれ「背筋ピン」と答えながら、実際に背筋を伸ばしていくといったシーンもある。
最終周の「背筋ピン」をくっきーや小籔さんが面白おかしく言っていく中、ガッキーの裏返った声での「背筋ピン」には、絵音さんだけでなく、観客からも笑みがこぼれていた。絵音さんがこの曲について「最後まで笑わずに歌えたことがない」と話していた理由がよく分かった瞬間だった。
個性光るメンバーのパフォーマンス
その後、「グータラ節」と「ルービックラブ」のパフォーマンスを終えると、ジェニーハイはいったんステージを離れ、衣装チェンジをして再登場。BiSHのメンバーのひとりであるアイナ・ジ・エンドをゲストに迎え、「不便な可愛げ」を披露したのち、「卓球モンキー」をプレイしていく。
MVほど地面すれすれではなかったものの、膝丈くらいの低い位置でベースをかき鳴らすくっきー、美しいピアノが無双するガッキー、思わずくすりと笑ってしまうイッキュウさんの語りなど、この曲の魅力は計り知れないが、中でもひと際、目を引いたのが、小籔さんである。
この日のために、ほぼ毎日のように自身のInstagramにコメントを添えて、ドラムの練習風景をアップしてきた小籔さん。そんな小籔さんが、時に真剣な眼差しで、時に瞳を閉じてビートを刻んでいく姿は、ブルブルと心を震わせたのだ。スティック回しなどの細かな芸などは入れずに、曲の世界観に入り込みながら叩いているように見えたその姿はとにかくカッコよかった。
MCでの小籔さんはお笑いのプロとしての顔を覗かせるものの、「ジェニーハイのテーマ」で「満員の観客を笑わせるんじゃなくて踊らせるんだ」と歌っているように、演奏中の小籔さんは一人ひとりの心を踊らせに来ているように感じた。そしてその想いは、イッキュウさんやガッキー、くっきーや絵音さんを観ていても、ひしひしと伝わってくるのである。
メンバーには、くっきーや小籔さんのように音楽を本業としていない人もいる。また、ガッキーのように、バンドを本業としていない人もいる。さらに、イッキュウさんにはtricotというバンドがあり、絵音さんはいくつものバンドを掛け持ちしている。一人ひとりが多忙な中でも、合間を縫って練習し、このように集っているのは、やはり“お客さんを楽しませたい”という想いが強いからではないだろうか。
ジェニーハイから感じられた絆
“人を楽しませる天才たち”は、この日、他にも「シャミナミ」や「片目で異常に恋してる」、それから「華奢なリップ」など、さまざまな曲を披露してくれた。
そして、それだけでない。ゲストには、ちゃんみなやアイナ・ジ・エンドほか、ロバートやお笑い芸人・パーフェクト・ダブル・シュレッダーの門野鉄平が登場。最高なエンターテイナーたちを招き、感動や笑いを提供してくれた。
何かに秀でた才能や素晴らしいセンスを持っているだけでなく、人としての魅力も兼ねそろえているからこそ、たくさんのゲストが駆けつけたのだと思っている。そんなジェニーハイを見ていると、既に“天才を超えている”ように感じるのだが、最新アルバムの表題曲「ジェニースター」で高みを目指していることを歌っているように、彼らの歩みはとどまるところを知らない。
ライブの1曲目にふさわしい「ジェニーハイのテーマ」から始まり、大トリでちゃんみなとコラボした最新アルバムの1曲目「華奢なリップ」で締めくくったセトリも、まだ終わらせないと言っているかのようだ。何より「長く続けたいですね」と話した小籔さんの一言が、説得力をもたらしていた。